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仙台高等裁判所 昭和61年(行ケ)2号の1 判決

原告 三見優一

被告 青森県選挙管理委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

昭和六一年七月六日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙(以下「本件選挙」という)の青森県選挙区における選挙を無効とする。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、本件選挙における青森県選挙区の選挙人である。

2  本件選挙は、公職選挙法一四条、別表第二による選挙区及び議員定数の定め(以下「本件議員定数配分規定」という)に基づいて行われたところ、同規定は人口分布に比例せず選挙区間における議員一人当りの選挙人数につき本件選挙当時最大五・八五対一(神奈川県選挙区と鳥取県選挙区との対比)に及ぶ較差があり、ために合理的根拠なしに選挙区いかんにより選挙人の投票価値に不平等を生じている。この状態は、憲法前文、一三条、一四条一項、一五条一項、四四条但書、九八条一項、九九条に違反するから、本件選挙は無効である。

その詳細は、別紙訴状及び原告の各準備書面の写に記載のとおりである。

二  請求原因に対する被告の答弁

請求原因1事実は認める。同2事実中、本件選挙の根拠法規が原告主張のとおりであること、本件選挙当時議員一人当りの選挙人数の較差が最大五・八五対一(神奈川県選挙区と鳥取県選挙区との対比)に及んでいたことは認めるが、その余は争う。右程度の較差は最高裁判所の判例の趣旨に照らし違憲の問題が生ずるような著しい不平等状態を来していたものとはいえない。各選挙区の投票率の差異は投票価値の不平等をもたらすものではない。その他原告主張の事由は何ら違憲の問題を生じさせるものではない。本件議員定数配分規定は憲法に違反しない。

第三証拠関係〈省略〉

理由

原告が本件選挙の青森県選挙区における選挙人であることは、当事者間に争いがない。

原告は、本件選挙の無効原因につき縷々主張するが、その帰するところは本件議員定数配分規定によると選挙区間の選挙人の投票価値に不平等を生ずるから憲法に違反する、ということである。

憲法一四条一項は国会議員の選出における選挙人の投票価値の平等についても要求していると解すべきであるが、他方、憲法は国会の両議院議員を選挙する仕組みの具体的決定を原則として国会の裁量にゆだねているから、右投票価値平等の要求も他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきであるところ、国会は、憲法が国会の構成について衆議院と参議院の二院制を採用し、各議院の権限及び議員の任期等に差異を設けていることに鑑み、参議院をして独自の機能と存在をもたせようとの政策的理由から、参議院議員選挙については、全都道府県を通じて選挙される比例代表選出議員一〇〇人と都道府県を単位とする選挙区において選挙される選挙区選出議員一五二人とに分かち、後者は半数改選を可能ならしめるため最少限の二人を四七選挙区に配分したうえ、残余五八人を選挙区の人口の大小に応じて二人ないし六人の偶数を付加配分するとの仕組みを定めたものであつて、この定めは国会の有する立法裁量権の合理的な行使の範囲を逸脱しているとはいえないし、その結果として投票価値平等の原則については、これが参議院(比例代表選出)議員選挙において完全に実現された衆議院議員選挙においても基本的に実現を要求されていたのに比べて、参議院(選挙区選出)議員選挙の場合はその要求にも一定の譲歩を免れないことになるというのが最高裁判所の判例の趣旨とするところである。そこでこの見地に立つて判断すると、本件議員定数配分規定に基づいて行われた本件選挙においては、議員一人当たりの選挙人数の較差が最大五・八五対一(神奈川県選挙区と鳥取県選挙区との対比)に及んでいたことは明らかであり、各選挙区間に選挙人の投票価値に不平等を生じていたのではあるが、この程度の不平等は立法政策の当否の問題に止まり国会に認められた裁量権の範囲を逸脱したものとはいえないから、いまだ憲法一四条一項に違反するとはいえない。なお、原告は同条のほかにも憲法の各条文を引用して、本件議員配分規定の違憲性について論難するが、いずれも理由がなく採用できない。

そうすると、本件議員定数配分規定に基づいて実施された本件選挙には違憲問題を生ずる余地がなく、他に選挙無効原因に関する主張もないのであるから、原告の請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 輪湖公寛 武田平次郎 木原幹郎)

別紙〈省略〉

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